ヤマトヌマエビとミナミヌマエビは、アクアリウムにおいてコケ取りを目的としたクリーナー生体として代表的な存在です。実際、熱帯魚を飼い始めてしばらく経つと、コケを食べてくれる生き物が欲しくなってきます。なぜなら、水槽の内壁や水草にコケが生えることを予防できるからです。
しかし、いざクリーナー用のヌマエビを水槽に導入しようとした際に、ヤマトヌマエビとミナミヌマエビのどちらを入れるか、お悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは、ヤマトヌマエビとミナミヌマエビを比較して、導入すべき適した飼育環境をご紹介します。
目次
ヤマトヌマエビとミナミヌマエビのことを動画で知る!
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ヤマトヌマエビとミナミヌマエビの特徴
それぞれの飼育環境に適したヌマエビを選択できるようになるためにも、まずはヤマトヌマエビとミナミヌマエビについて、生態や特徴などを理解しておきましょう。
ヤマトヌマエビとは
日本の河川に棲むエビで、ペットショップで購入できるときのサイズは3~5㎝程と比較的大型です。ミナミヌマエビよりも大きいので日常的に餌として口にするコケも多く、1匹あたりのコケ取り能力も高い傾向にあります。
頑固な黒髭コケも食べてくれる猛者で、水槽内に複数匹入れるだけでコケの除去が期待できるエビです。しかし、比較的大きなヌマエビなので水槽内での存在感があり、人によってはデメリットに感じることもある点は留意してください。
元々は汽水域に生息しており、繁殖の際は卵から「ゾエア幼生」と呼ばれるプランクトンの状態で誕生します。誕生後は海で浮遊生活を経た後に稚エビへと変態するので、普通の水槽における飼育下で繁殖させるのは至難の業です。
ミナミヌマエビとは
九州~本州の河川に棲むエビで、ペットショップで購入できるときのサイズは2~3㎝程と小型です。ヤマトヌマエビと比較すると小型なので、口にするコケの量も少なく、1匹あたりのコケ取り能力には劣る傾向があります。
一定のコケ取り効果を実感するためには数を多く入れる必要がありますが、小型ゆえに水槽内であまり目立たないので、それほど気にはならないことでしょう。
ヤマトヌマエビとは異なり、卵からは幼生ではなく稚エビの状態で誕生するので、水槽内でも簡単に繁殖させることが可能です。ただし、稚エビは小さいのでフィルターの吸水口から吸い込まれやすく、吸い込まれると死んでしまいます。
そのため、ミナミヌマエビを水槽内で繁殖させて世代交代させたいのであれば、フィルターの吸い込み口にスポンジを取り付けるなどして、稚エビが吸い込まれないような措置を講じると良いでしょう。
ヤマトヌマエビとミナミヌマエビのどちらを選ぶ?
ヤマトヌマエビとミナミヌマエビのどちらを選ぶか迷った時には、次の基準で考えてみると良いでしょう。
・コケ取り能力を期待したい→ヤマトヌマエビ
・比較的大きな魚と混泳させたい→ヤマトヌマエビ
・水槽内で繁殖させたい→ミナミヌマエビ
・水槽内で目立って欲しくない→ミナミヌマエビ
言うまでもありませんが、ミナミヌマエビでは口に入ってしまう(食べられてしまう)魚と混泳させる場合には、ヤマトヌマエビを入れるという選択をおすすめします。しかし、水草を密生させておけばミナミヌマエビが隠れられるので、混泳させることは不可能ではありません。
餌は何をあげるの?
ヌマエビをクリーナー生体として混泳させるにあたり、基本的には餌を与える必要はありません。なぜなら、水槽に発生するコケや熱帯魚が食べ残した餌を食べられるからです。しかし、コケや食べ残しの量が不十分だった場合は、当然ながらヌマエビは餓死してしまいます。
その場合は、ヌマエビ用に改めて餌を与える必要性が出てきます。ヌマエビ用の餌は専用のものも販売されていますが、コリドラス用やザリガニ用のものでも代用が可能です。注意していただきたい点は、餌の過不足をよく見極めることです。
アクアリウムにおける水の汚れの大きな原因の1つとして、生体に与える餌が挙げられます。ヌマエビにとって餌が十分である環境なのに改めて餌を与えてしまっては、それらの餌は食べ残しとなり、水質の悪化を加速させてしまいます。
水換えや掃除の手間を軽減するためにクリーナー生体を導入したのに、そのクリーナー生体用の餌が水質の悪化を加速させてしまっては本末転倒です。そのような事態にならないためにも、ヌマエビの様子とコケの発生状況、食べ残した餌の有無などを日頃からよく観察することが重要です。
また、水槽の環境や混泳魚の影響などでヌマエビが怯えてしまい、餌を取れない状態に陥ることもあります。その場合も餓死してしまうことがあるので、やはりきちんと餌を食べているか日頃から観察し、問題があるようならば解消してあげることが重要です。
ヌマエビに最適な水草
ヌマエビの場合、基本的にはどのような水草でも適応できますが、特に相性が良い水草としてはアヌビアスナナ・ウィローモス・アナカリス・ヘアーグラス・リシア・パールグラスなどが挙げられます。
アヌビアスナナは基本的には丈夫な水草ですが、成長が遅くてコケが付着しやすいので、ヌマエビにコケを食べてもらえば、健全な成長が期待できます。アヌビアスナナが順調に育てば、ヌマエビの隠れ家にもなることから両者の相性は良好です。
ウィローモス・アナカリス・ヘアーグラス・リシア・パールグラスに関しても、ヌマエビの隠れ家になるうえに、餌が不足している場合はこれらの水草を食べることで飢えをしのげます。逆に言うと、コケや熱帯魚などからのおこぼれが不足していると、水草を食害してしまうので注意してください。
これらの水草の中でもアナカリスは成長が早く、低光量でCO2の添加がない環境でも十分に育成が可能です。さらに、多少ヌマエビからの食害を受けたとしても、環境さえ整っていればどんどん増殖するので特に初心者におすすめできる種類です。
ただし、いずれの種類でもヌマエビがいる水槽に入れるのであれば、無農薬栽培された水草を導入してください。ヌマエビを含む甲殻類などの無脊椎動物は、一般的に熱帯魚などよりも薬物耐性が低いので、残留農薬の影響で死亡する危険があります。
また、無農薬栽培の水草でも、スネールやヒドラ、プラナリアなどのアクアリウムにおける有害生物とその卵が付着している可能性があるので、前処理は必ず行っておきましょう。
最近では、農薬や有害生物の侵入リスクを避けるために、完全無農薬・無菌状態で栽培された「組織培養水草」も市販されています。
混泳水槽内でヌマエビだけが死んでしまう原因3つ
ヌマエビを飼育していると、時々「ヌマエビだけ」がなぜか死んでしまうことがあります。ヌマエビ以外の魚は元気にしているのに、なぜかヌマエビだけが死んでしまうのです。ここからは、その原因について紹介したいと思います。
水温差によるショック
水槽への導入時や水換えの時に水温を合わせることは大切です。そうしないと、ヌマエビがダメージを受けることがあります。冬場などは特に気を付けて、水温を合わせてあげてください。
なお、ヌマエビが水底で動きを止めて固まっている(前脚で啄む動作を停止している)のは要注意サインです。そのような様子が見られた時には、十分に時間をかけて水合わせを行ってください。
また、ヌマエビは酸欠に弱い一面があるので、水槽導入前の水合わせ時にはエアレーションを忘れないでください。
pH差によるショック
水温差と似ていますが、水替え時や水槽の移動時にpHショックを起こすこともあります。この場合は、すぐに死亡するケースもありますが、数日後に死んでしまうこともあります。
こちらも予防策としては、水換えを丁寧にすることが重要です。なお、水槽導入時には十分に時間をかけて水合わせをすることが有効です。また、前述したようにエアレーションも忘れないでください。
水の汚れ(硝酸塩濃度やアンモニア濃度)
水槽の掃除をさぼっていると、水中の硝酸塩濃度やアンモニア濃度が上昇します。これらは生き物にとって有害なため、魚よりも水質に敏感なヌマエビにはダイレクトに影響が出て、最悪の場合は死んでしまいます。
また、このように水が汚れた水槽では、ヒーターを入れていてもヌマエビが繁殖しない(急に卵を持たなくなる)現象が起こります。「最近、ヌマエビが繁殖しないなぁ?」と思った方は、底砂やフィルターが汚れていないか、チェックしてみてください。
混泳に注意が必要な魚!
ヤマトヌマエビとミナミヌマエビは優秀なクリーナー生体ですが、甲殻類であるために多くの魚種にとって好物になり得ます。
特に、ミナミヌマエビは小型なので混泳には注意が必要です。ヌマエビ同士であっても異なる種類を混泳させると、ミナミヌマエビがヤマトヌマエビに捕食されることもあるので、水槽に入れる種類は統一する必要があります。
ここでは、混泳させる際に特に注意が必要な魚種をご紹介します。
エンゼルフィッシュ、シクリッド
エンゼルフィッシュの食性は肉食性で、シクリッド類の中にも動物食性が強い種類が多いです。これらの魚種は野生では甲殻類も好んで食べているので、飼育下でもヌマエビは恰好の餌になってしまいます。
また、気性が荒い個体が多く、口に入る生体であれば魚も含めて捕食してしまう可能性が高いので、基本的には混泳は避けた方が良いでしょう。
ベタ、グラミー
ベタは主に上層を遊泳し、口が小さくて大きなヒレのせいで泳ぎが下手なため、ヌマエビを捕食することも下手です。ただし、ベタ自身は甲殻類が好物なので、ヌマエビを見かけると食べようと突っつきに行きます。そのため、基本的には混泳は避けた方が無難です。
グラミー類については、ゴールデンハニードワーフグラミーなどの小型の種類であれば、混泳が成功しやすいです。しかし、パールグラミーなどのように、やや大型になる種類はヌマエビを捕食してしまうことがあるので注意してください。
フグ類
アクアリウムで飼育される淡水フグとしては、ミドリフグやアベニーパファーが人気ですが、これらフグ類も甲殻類が大好物です。フグの餌として販売されているクリルは甲殻類の1種であるオキアミを乾燥させて栄養を付加したものですし、乾燥エビも好んで食べます。
そんなフグたちにとって、ヌマエビは美味しいご馳走として映ってしまうので、混泳させると積極的に捕食しようとします。アベニーパファーは体長3cmほどにしかなりませんが、ミナミヌマエビは襲われてしまいます。
ヤマトヌマエビに関しても前述のように怯えてしまい、ストレスで衰弱することもあるのでフグ類との混泳も避けた方が良いでしょう。
金魚
金魚は成長すると意外と大きくなり、体長20~30cm程度になることが普通です。そして、金魚は大食漢なうえに雑食性の食性を持つので、餌と認識した口に入る大きさのものは何でも食べてしまいます。そのため、ヤマトヌマエビでも金魚の口に入れば捕食されてしまうので混泳は不可です。
金魚の場合はヌマエビにかかわらず、小魚やラムズホーンなどの貝類も口に入れば食べてしまいます。また、発生するコケも金魚は食べるので、コケ対策のためにあえてヌマエビを入れる必要はないでしょう。
まとめ・混泳水槽におすすめのヤマトヌマエビとミナミヌマエビの比較について
ヤマトヌマエビとミナミヌマエビはコケ取り用のクリーナー生体として優秀な存在です。しかし、甲殻類であるがゆえに魚類とは体の構造が異なるため、環境の変化には弱い一面があるので注意してください。
それぞれについて、メインで飼育している魚種との相性など、飼育環境で向き不向きがあるので、ご自身の水槽に適合している方を選択してください。
なお余談ですが、東京都や神奈川県といった大都会でも、身近にある河川でミナミヌマエビやヤマトヌマエビを採集することができます。
採集のポイントは、水に浸かった植物の根元です。柄の長い魚網を使用すれば、岸から採集することもできますので、週末にフィールドに出かけてみてはいかがでしょうか?自分で採集したヌマエビを飼育するのは、とても楽しいですよ♪

水槽のプロ トロピカライターの上原巧です。
魚介類は観賞するのも食べることも好きです。
情報を発信する立場として、正確な情報を分かりやすい文章でお伝えすることを心がけています。
私の記事が皆様のお役に立てれば幸いです。