エンゼルフィッシュはアクアリウム用品のパッケージに描かれることも多い、熱帯魚の顔とも言えるほどの代表種です。その特徴的なフォルムは古くから人々の心を魅了し、現在までに様々な改良品種が作出されています。
成魚は水質への適応力も高く、丈夫で飼育難易度が低いため、アクアリウムの入門種としてもおすすめです。また、繁殖も容易なので、熱帯魚の繁殖のコツを学びたい方にとっても最適です。ここでは、エンゼルフィッシュについて飼育法や混泳、繁殖法などをご紹介します。
エンゼルフィッシュとはどのような熱帯魚か?
特徴
エンゼルフィッシュはスズキ目シクリッド科に属する淡水魚の1種です。強く側扁した菱形の魚体に、長く伸長した背ビレと腹ビレ、尻ビレを持つ独特のフォルムが特徴です。
体長は最大で15cmほどで、改良品種は色と模様がバリエーションに富みますが、ワイルド種は褐色を帯びた銀白色の体色を基調に黒色の縞模様が入ります。
アマゾン川水系に広く生息しており、ペルーやコロンビアなど南アメリカ大陸の北部を中心に分布しています。水流が穏やかな場所を好み、食性は小魚や甲殻類、昆虫類などを捕食する肉食性です。
寿命
エンゼルフィッシュの寿命は平均すると5~6年ほどです。飼育環境に気を付けて上手に飼育できた場合は、10年以上も生きた個体もいるようです。比較的寿命が長い熱帯魚なので、最後まで飼育し切れるかどうか、よく判断したうえで飼育してください。
種類
アルタムエンゼル
エンゼルフィッシュの原種の1つで、アマゾン川の支流であるネグロ川やオリノコ川に生息しています。原種の中では背ビレと腹ビレ、尻ビレが大きく伸長する、美しいプロポーションが特徴です。
アルタムエンゼルは、非常に飼育が難しいことでも有名です。
水質にデリケートで、菌やウイルスに対する抵抗力も弱く、アクアリウム上級者でも手こずるほどの飼育難度です。
同様に繁殖も難しく、飼育下での成功例はほとんど確認できません。
飼育するとなるととても手のかかるアルタムエンゼルですが、成長する体高は30㎝にもなり、プロポーションの美しさはエンゼルフィッシュいち、との呼び声高い種類です。
アクアリストなら一度はあこがれるエンゼルフィッシュです。
スカラレエンゼル
こちらのエンゼルフィッシュも原種の1つで、アマゾン川流域に広く生息しております。
原種ではありますが、その飼育難度は低く、容易に繁殖も楽しめます。
そのため、ほとんどの改良品種が、元を辿ればスカラレエンゼルにたどり着くともいわれています。
また、ペルー原産のものはプロポーションが良いことで有名で、ペルーアルタムと呼ばれ、人気の高い種類です。
ワイルド種の中で流通量が最も多い品種がこのスカラレエンゼルです。
エンゼルフィッシュ・ブルー
改良品種の1種で、銀白色の体色を基調に光の当たり具合で、青色の発色が強くなる美しい品種です。
一昔前まではかなりの高値がついていましたが、現在では安定してブリードされており、価格も落ち着いています。
この種類は繁殖も楽しむことができます。
必ずしも親と同じ、美しい体色の子供が生まれるわけではないそうですが、子育てをする姿はとても神秘的です。
プラチナホワイト・エンゼルフィッシュ
改良品種の1種で、全身が白色でプラチナ色に輝くエンゼルフィッシュです。原種に特徴的だった縞模様は見られません。個体によってはヒレが青色を帯びることもあります。
このエンゼルフィッシュは、アルタムエンゼルほどではないにしろ、若干水質の変化に弱い傾向があります。
しっかりとろ過装置を回し、こまめな水替えがきちんとできれいれば長期飼育や繁殖も狙えるでしょう。
ブラックベールテール・エンゼルフィッシュ
改良品種の1種で、全身が黒色のベールテールタイプのエンゼルフィッシュです。ベールテールとは各ヒレが長くなるように改良された品種のことを指します。長いヒレがエンゼルフィッシュのプロポーションを引き立てる華やかな品種です。
このようなロングフィンタイプの熱帯魚は、一般的に泳ぎが苦手です。
さらに、ヒレを傷つけてしまうリスクも大きく上がりますので、導入する際はしっかりと水槽を用意してからにしましょう。
エンゼルフィッシュの飼育に必要な器具類
エンゼルフィッシュの飼育には、主に以下に示す器具類が必要です。
・水槽
・フィルター
・照明
・エアレーション
・ヒーター
・カルキ抜き剤
・餌
これらの中で、特に注意が必要なものを次で説明します。
水槽
エンゼルフィッシュは成長すると体長10~15cmほどになるので、水槽のサイズは最低でも45cmは必要です。そして、このサイズで飼育できるのは成魚1匹までです。2匹以上の成魚を飼育したいのであれば、60cmクラスの水槽が推奨され、90cmクラスであれば5匹前後を同時に飼育できます。
また、エンゼルフィッシュは体高が高く、ヒレが上下に伸長します。その美しいプロポーションを保つためには水深も重要で、推奨される水槽の高さは45cm以上です。食性の関係から水を汚しやすいので、水質維持の観点からも他の熱帯魚以上に、大きめの水槽での飼育が推奨されます。
フィルター
エンゼルフィッシュはその食性から水を汚しやすい熱帯魚なので、フィルターはろ過能力に優れた形式を導入した方が良いでしょう。候補としては上部式と外部式で、水草と混泳させたい場合はCO2を逃がしにくい外部式が、熱帯魚のみで飼育する場合はメンテナンス性に優れる上部式がおすすめです。
エンゼルフィッシュの飼育方法
水温・水質
エンゼルフィッシュを飼育できる水温は22~32℃前後です。急激な変動さえ避ければ幅広い水温に適応できますが、低温域では「白点病」のリスクが高くなるので、年間を通じて25℃以上に保つことを推奨します。
エンゼルフィッシュが好む水質は、pH5.5~7.0の弱酸性から中性の軟水です。成魚は比較的水質の変化に強いですが、幼魚期は脆弱な一面を持っています。新しい幼魚を水槽に導入する際は、水合わせをしっかりと行ってください。
餌
エンゼルフィッシュは肉食魚なので餌も生餌を与えると喜びます。しかし、生餌は水を汚しやすいので、普段は肉食魚用の人工飼料を与えて、たまに生餌を与える程度にした方が良いでしょう。
生餌は、冷凍保存できるタイプが管理しやすく、おすすめです↓
とはいっても、私の経験上、比較的選り好みせず何でも食べてくれます。
与え方は1日に1~2回に分けて、5分程度で食べきれるだけの分量を与えてください。食べ残しは水質を悪化させ、特に生餌は顕著です。食べ残しが生じないように注意して、食べ残した餌はできるだけ取り除いてください。
水槽レイアウト
エンゼルフィッシュは長くたなびく美しいヒレを持っています。水槽内のレイアウトを複雑にしてしまうと、せっかくのヒレを引っ掛けてしまって傷が付き、鑑賞性が低下する恐れがあります。
陰性の硬い水草や複雑に伸びる枝流木、角のある石などは要注意です。
なるべくソフトな水草を選び、シンプルなレイアウトにすると良いでしょう。
シンプルなレイアウトでも、エンゼルフィッシュの余りある存在感で十分きれいな水槽に仕上がるかと思います。
水槽の水流について
エンゼルフィッシュはもともと、川というよりはため池に近いような止水域に生息する熱帯魚です。
そのため、エンゼルフィッシュは水流を嫌います。フィルターの排水やエアレーションにより、強い水流が生じないように配置には注意してください。
エンゼルフィッシュの扁平な体は、わずかな水流でも強い影響を受けてしまいます。
水流が強いと、それだけでストレスになるだけでなく、体力を消耗し弱ってしまいます。
気を付けましょう。
メンテナンスについて
メンテナンスの内容は他の熱帯魚と同様に、水換えと水槽内部および周辺機器の掃除です。エンゼルフィッシュは排せつ物の量が多いので、底床材を導入すると掃除が煩雑になる点は留意してください。
エンゼルフィッシュのみ、あるいは上層から中層を泳ぐ熱帯魚と混泳させる場合であれば、ベアタンクでの飼育でも問題ありません。しかし、底棲魚と混泳させる場合は適した飼育環境を整えようとすると、底床材を導入した方が良くなるので注意してください。
水草と混泳させたい時も同様で、ソイルなどを入れて植えてしまうとメンテナンス性が悪化します。水草を導入したい場合は、流木や石などに活着させた状態で設置すると、幾分は掃除がしやすくなるのでおすすめです。
混泳について
エンゼルフィッシュを含むシクリッド類は縄張り意識が強いので、混泳には注意が必要です。同種同士は小競り合いをすることも珍しくなく、特にオス同士は顕著なので、十分に広い水槽を用意するか、いつでも隔離できる準備はしておいた方が無難です。
他種で混泳相性が良い魚種は、エンゼルフィッシュに捕食されない程度の大きさかつ、エンゼルフィッシュを攻撃しない温厚な種類です。
相性のいい生体 ドワーフグラミー
例としては、ドワーフグラミーなどの小型グラミーはお勧めです。
エンゼルフィッシュに食べられない大きさで、かつ非常に温厚な性格のドワーフグラミーは、相性の良いタンクメイトと言えるでしょう。
相性のいい生体 カラシン類
ラミーノーズテトラ、ネオンテトラなどのカラシン類も、エンゼルフィッシュとの混泳が可能です。
これらカラシンの仲間は、エンゼルフィッシュと比べると泳ぎが早いため、エンゼルフィッシュの攻撃から逃れることができます。
ただし、もちろん食べられてしまうことは十分に考えられるので、混泳させるときはエンゼルフィッシュの口に入らないサイズまで成長した個体を選びましょう。
相性のいい生体 コリドラス
また、コリドラスなど、根本的に遊泳スペースが違う生体もおすすめします。
やや上層寄りの中層を遊泳スペースとするエンゼルフィッシュが底性のコリドラスと出会うことは、ほとんどありません。
相性の良くない生体 ベタ・グッピー・プレコなど
一方で、ベタやグッピー、プレコなどとは相性が良くありません。
ベタ・グッピーは泳ぎが遅いため、エンゼルフィッシュの格好の攻撃の的になります。
ひらひらの美しい鰭は、あっという間にボロボロにされてしまうでしょう。
グッピーくらいのサイズだと、食べられてしまいます。
また、プレコは岩などに生えたコケを舐めとりますが、同じ要領でエンゼルフィッシュの体表をなめとってしまうことがあります。
皮膚が非常に弱いエンゼルフィッシュは、それが原因で死んでしまうことも。
確かに扁平な体で、プレコが引っ付きやすそうな体をしています。
気を付けましょう。
相性の良くない生体 エビ類
それから、エビ類はエンゼルフィッシュの好物なので混泳は不可です。
瞬く間に食べられてしまうので、気を付けてください!
また、一般的に相性が良いとされている熱帯魚でも、サイズ差が大きいとエンゼルフィッシュに捕食される場合があるので注意してください。
エンゼルフィッシュの繁殖
一部の原種を除くエンゼルフィッシュの繁殖は容易で、適した飼育環境を維持していれば、特別に水質などを調整しなくとも産卵までに至ります。ここでは、エンゼルフィッシュの繁殖法をご紹介します。
産卵まで
産卵させるためには、まずペアを作らねばなりません。エンゼルフィッシュの雌雄の見分けは外見では困難なので、大きめの水槽で複数匹を飼育して、ペアが自然に形成されるのを待ちましょう。
2匹が寄り添って泳ぎ、周囲の個体を追い払うような行動が見られれば、ペアが成立したとみて間違いありません。繁殖期のエンゼルフィッシュは気性が荒くなるので、別に繁殖用の水槽を設けて、ペアを移動させてください。繁殖用の水槽は、60cmクラスのサイズがあれば問題ありません。
産卵からふ化まで
エンゼルフィッシュは野生では水草などに卵を産み付けるので、繁殖用の水槽内にも産卵基質を導入してください。産卵基質は葉がしっかりとしたアマゾンソードなどの水草や流木、パイプなどでも代用できます。
産卵後の卵は、親魚がふ化までヒレを使って水流を送るなどして面倒を見てくれるので、静かに見守りましょう。
しかし、若いペアなどでは食卵する場合があるので、その時は隔離してください。隔離した卵は十分にエアレーションを効かせた環境で、弱い水流を当てるようにして水カビが生じるのを防止しつつ、ふ化まで待ちましょう。
稚魚の世話
卵は2~3日でふ化して稚魚が誕生します。稚魚は卵黄嚢が付いた状態で生まれ、1週間ほどで卵黄の栄養を吸収し終え、遊泳できるまでに成長します。卵黄嚢の養分がある間は餌を与えても食べないので、餌を与える必要はありません。
餌を与えるタイミングとしては泳ぎ出してからで、餌はブラインシュリンプを与えると良いでしょう。稚魚は成長のために養分をより多く必要とします。餌は1日に最低でも2回に分けて与えると、成長が促進されて死亡率が高い時期をより早く抜けられます。
生後1カ月も経過すれば体高も高くなり、親魚と同様の姿に成長するので、以降は通常の飼育法に切り替えても問題ありません。
まとめ・エンゼルフィッシュの飼育法について
エンゼルフィッシュは熱帯魚の代表種で、その独特のフォルムや模様から高い鑑賞性を有し、古くからアクアリウムの世界で親しまれてきた魚種です。
改良品種も豊富に存在し、飼育や繁殖も容易なことから、アクアリウムの入門種としても最適です。これからアクアリウムを始めようとしている方は、まずはエンゼルフィッシュの飼育から挑戦してはいかがでしょうか。

水槽のプロ トロピカライターの上原巧です。
魚介類は観賞するのも食べることも好きです。
情報を発信する立場として、正確な情報を分かりやすい文章でお伝えすることを心がけています。
私の記事が皆様のお役に立てれば幸いです。