水族館などの大型水槽から、家庭で本格的な水槽を運用する上において最高のろ過パフォーマンスを可能とするシステムが、オーバーフローろ過槽を使ったろ過システムです。
オーバーフローろ過システム最大の特徴は、ろ過槽を自由にカスタマイズできるところにあります。
しかし、ひとえにオーバーフローろ過槽と言っても様々な種類があるため、そもそもどんな種類があるのか、種類により能力や金額に差が生まれます。
このような悩みを解決すべく、ここではオーバーフローの心臓部であるろ過槽にフォーカスし徹底解説していきたいとおもいます。
オーバーフロー濾過槽の素材
素材は通常、塩ビ製ですが、高い耐久性を持つアクリル製で製作された商品もあります。
塩ビとアクリルの素材ごとの特徴を解説していきます。
-
塩ビ
- アクリルと比較し衝撃に強く耐久性が高いです。
- 使ってみると、アクリルより若干柔らかい印象が持てます。
アクリルと比較するとやや重量があること、また、素材の特性上アクリルより透明度は劣ります。
-
アクリル
軽量で、塩ビより重量を抑えることができます。
また、水槽に使われる素材だけあり、非常に透明度が高く見た目が美しいです。
ただし、衝撃にやや弱いため取り扱いは慎重に行う必要があります。
通常、塩ビと比べると価格は高くなりますが、製作状況によっては塩ビより安くなることもあります。
オーバーフローろ過層の
オーバーフローのろ過槽は、飼育目的に合わせて最適なろ過槽を選ぶ、または設計します。
ここでは、各ろ過槽の特徴を解説していきます。
ウェット式ろ過槽
ウェット式ろ過槽を選ぶメリット
はじめてオーバーフローろ過槽を購入する方におすすめです。
メーカーの既成品を利用すれば、ろ過槽を設計する必要もないためスムーズに設置することができます。
複雑な設計をしなければ、最大限ろ過材を使いろ過能力を高めることができるため、熱帯魚を数多く飼育する場合や、水を汚すアロワナなどの肉食魚を飼育することに非常に向いています。
このことから、初心者からベテランまで幅広いアクアリストに使われている最もメジャーなオーバーフローろ過槽が、ウェット式ろ過槽ということになります。
ウェット式ろ過槽を選ぶデメリット
定期的にろ過材を洗浄する必要があります。
経年劣化により、ろ過材が目詰まりを起こし水質悪化を引き起こすからです。
対策としておすすめなのは、ウールボックスを設置することです。
理由として、ウールボックス内にウールマットを敷き余計なゴミを濾し取ることで、ろ過材の目詰まりを少しでも抑制できるからです。
他にも、ろ過材の洗浄を簡単にするために、ろ過材の入るスペース下に排水専用のドレン配管を設ける方法や、ろ過材をネットに入れて取り出しやすいようにする方法もあります。
金額
特別な設計をしなければ、オーバーフローろ過槽の中で最も安価なろ過槽です。
市販品も大抵ウェット式ろ過槽です。
金額的にも初めての方には手が出しやすくおすすめです。
ドライ式ろ過槽
ドライ式ろ過槽を選ぶメリット
ウェット式ろ過より安定的にろ過能力を上げたい方におすすめです。
ドライボールと呼ばれる専用のろ過材を水中では無く空気中にセットします。
オーバーフローしてきた水が、空気中の酸素と触れ合うことで好気性バクテリアの繁殖に向いていることから、水質が安定しやすいろ過システムです。
ドライろ過のろ過能力は、ウェットろ過の3~5倍はあると言われています。
ドライろ過材専用のドライボールは、プラスチックのような素材で出来ているため重量が軽く扱いやすく半永久的に使い続けることができます。
さらに、ドライボールはゴミが溜まりづらいため、10年以上洗浄しなくても運用できるケースが多く設置後の管理に時間をかけずに済むこともメリットです。
ドライ式ろ過槽を選ぶデメリット
メーカーの既成品は無いので、一からろ過槽を設計する必要があります。
さらに、十分なろ過能力を確保するにはドライタワーと言われるような大型のドライろ過槽が必要となるため設置スペースの確保が必要です。
ドライろ過はろ過能力は高いのですが、ウェットろ過と比較しバクテリアの定着スピードは遅いと言われており水槽の立ち上がりに時間がかかると言われています。
金額
特注で作らなければならないこと、また一体型ろ過槽という形状になることが多いことからウェット式ろ過層より値段は高くなります。
また、ろ過材であるドライボールも、ウェットろ過材に使用する一般的なろ過材と比較し高価です。
ドライろ過材以外の他のろ過材でもドライろ過システムはできますが、使用するろ過材の量が多くなる場合は注意が必要です。
理由として、重量トラブルによりろ過槽が破損する可能性があるからです。
ドライろ過材を選ぶ際は慎重に選びましょう。
ウェット&ドライ式ろ過槽
ウェット&ドライ式ろ過槽を選ぶメリット
その名の通り、ウェットろ過とドライろ過を組み合わせた最強のろ過システムです。
ドライろ過材を通して水と一緒にバクテリアが流れてくるため、ウェットろ過材にもバクテリアが素早く定着します。
ドライろ過は、ウェットろ過よりバクテリアの定着に時間を要すると言われています。
ドライろ過にバクテリアが定着するまでの間、ウェットろ過に頑張ってもらいながらドライろ過にバクテリアが定着するのを待ちます。
また、間欠式ろ過システムと言って、間欠運転によりろ過材スペースの水位を上下させるろ過システムもありますが、これも大枠ではウェット&ドライろ過システムに当てはまります。
ウェット&ドライ式ろ過槽を選ぶデメリット
特注で作る必要があるため、はじめてオーバーフローろ過槽を検討している方にはややハードルが上がります。
ただ、ウエット&ドライろ過槽は使用者も多いためインターネットで探せば設計事例が多数検索できます。
そこから近い物を真似して設計してみてはいかがでしょうか。
金額
特注で作ること、また一体型ろ過槽の形状で作るため一般的なろ過層より金額は上がります。
ただし、水質の安定と言った飼育管理の面では完璧なので、長く運用することを考えれば機能面だけでなくトータルコストとしてもおすすめです。
ベルリン式ろ過槽
ベルリン式ろ過槽を選ぶメリット
サンゴ水槽において運用されるシステムで、別名ベルリンシステムとも呼ばれています。
本物のベルリンシステムは、ろ過槽の中にプロテインスキマーと呼ばれるたんぱく質除去装置のみを使いろ過をしていきます。
ろ過材を使うことの副産物である硝酸塩を無くすため、ろ過材は一切使わないことが最大の特徴です。
これにより、水槽内の栄養塩が限りなく0になることでサンゴの育成管理に大変向いているシステムです。
プロテインスキマーを使い素早く有害物を無害化し、それでも取りきれない微量な有害物は砂の浄化システムを使い窒素に変換し無害化させます。
砂は5センチ以上敷くことで嫌気性細菌を作ることができます。嫌気性細菌を作りだす出すことで硝酸塩を窒素に変換し無害化させるのです。
ただ最近では、ウールマットを利用し物理ろ過を使うケースも多くなりました。
しかし、ベルリンシステムの目的である好気性バクテリアの繁殖はできるだけ無くす必要があるため、頻繁にウールマットは交換する必要があります。
ベルリン式ろ過槽を選ぶデメリット
プロテインスキマーのみでろ過をするため、魚を数多く飼育することが難しいことです。
また、プロテインスキマーが故障した場合、すぐに修理または代用品が必要となります。
旅行などで家を空ける場合は、事前にインペラやエアーチューブなどのメンテナンスをしてから外出することをおすすめします。
金額
ろ過槽本体はプロテインスキマーが入ればいいだけですので、金額面では安く収まることが多いです。
ただし、プロテインスキマー本体の価格は高価ですので、ろ過槽とプロテインスキマー両方の金額で考えるとろ過システムとしては高額になります。
以上で、ろ過槽の紹介は終了です。
続いて、オーバーフローろ過槽とセットで付けることの多いウールボックスについて解説していきます。
オーバーフローろ過槽におけるウールボックスの役割
オーバーフローろ過槽を使う場合、ウールボックスを付けることをおすすめします。
しかし、ウールボックスだけでは機能しません。ウールボックスはウールマットと呼ばれる白い綿とセットで使用することで効果を発揮します。
ウールボックスの役割は、大きく2つの役割を担っています。
- ウールマットを使用することによる物理ろ過
- ウールマットを使用することによるろ過材の目詰まりを抑制
ウールマットを使用することによる物理ろ過とは
水槽の飼育水がオーバーフローしてきた最初の着水点がウールボックスです。
ウールボックス内に、アクアリウム専用のウールマットを敷くことで、魚の糞や餌の残りなどの汚れを取り除くことができます。
このように物を使用したろ過方法を物理ろ過と言います。
物理ろ過は、目に見えて汚れが取り除かれている状況が確認できるのも特徴です。
汚れてきたらウールマットを交換することで、人力で水質悪化を抑制することができます。
ウールマットを使用することによるろ過材の目詰まりを抑制
ウールマットによる物理ろ過をすることで、ろ過材へ流れるゴミを減らすことができます。
これにより、ろ過槽を洗う頻度を減らすことができます。
続いて、ウールボックスとろ過槽の組み合わせ方について解説します。
ろ過槽とウールボックスの組み合わせ方
ウールボックス脱着型ろ過槽
最もオーソドックスなウールボックスを使ったろ過槽です。
ろ過槽とウールボックスが分かれており、ろ過槽の上にウールボックスを置いて使います。
脱着型ろ過槽を選ぶメリットですが、比較的価格が安価なことです。
市販品のろ過槽の多くは脱着型ろ過槽のため、初めてオーバーフローろ過槽を使う方におすすめです。
デメリットは、海水魚水槽で使う場合は、ろ過槽とウールボックスの接地面から塩ダレしやすいことです。
また、脱着式ウールボックスの場合、仕切りを付けてオーバーフロー加工仕様にすることをおすすめします。
とくに、アロワナなどの肉食魚で汚れやすい場合は注意が必要です。
ウールボックス底が目詰まりすることで、ウールボックスから水が溢れるトラブルを引き起こしかねません。
もし、オーバーフロー加工しない場合は、ウールボックス底に付けるスノコの目を粗くするなど対策をしましょう。
ウールボックス一体型ろ過槽
ろ過槽とウールボックスを切り離すことができないろ過槽です。
さらに、一体型ろ過槽は2種類に分けることができます。
一体型L字ろ過槽
海水魚水槽で使用する場合、最も塩ダレしにくいろ過槽です。
ドライろ過槽を設計する場合は、L字型ろ過槽となるケースが多くウールボックスとの継ぎ目が無いことから外観も美しいろ過槽の1つです。
ただし、L型と特殊な型となるためウールボックス脱着型より価格が上がります。
ろ過槽内一体型ろ過槽
アクアリウム業界でもあまり馴染みの少ないろ過槽です。
ろ過槽内にウールボックスの役割となるよう、スノコを設けておきます。
スノコの上にウールマットを敷くことで、ウールボックスと同等の役割を果たすことが可能です。
ウールボックスの高さ分、ろ過槽全体の高さを上げることができるため、より多くのろ過材スペースや水量の確保ができること、また、ウールボックスが必要無いため価格が安いことが大きなメリットです。
デメリットは、特注で設計する必要があるため初心者にはやや導入にハードルがあることです、
ただし、運用後の管理がしやすく価格も安い、さらに他のろ過槽を設計するよりも簡単です。
是非、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
ウールボックス引き出し型ろ過槽
非常に特殊なウールボックスの仕様です。
引き出し型ろ過槽のメリットとして、ウールマットを交換しやすく塩ダレがしにくいこと(海水魚水槽の場合)が挙げられます。
とくに、ウールマットを交換する手軽さは、他のろ過槽と比較してもトップクラスです。
ただし、やはり特殊な構造の代償として高価であること、さらに設置が難しいです。
オーバーフローしてくる配管が少しでも長くなれば、引き出しに配管があたり引き出せなくなってしまいます。
この部分を接着するとなると非常に経験がいる配管作業となるため、採寸と仮組を行い慎重に作業しましょう。
続いては、ろ過槽の仕切り方について解説します。
オーバーフローろ過槽の仕切り方
オーバーフローろ過槽は、ろ過槽内を仕切ることでよりよいろ過システムとすることができます。
しかし、設計を失敗すればポンプが入らないなどのトラブルも。
ここでは、経験に基づく仕切り方の目安を解説していきます。
2槽式ろ過槽
60センチ以下の小型オーバーフロー水槽におすすめは、2槽式ろ過槽です。
非常にシンプルな仕切り方で、片方がろ過材、もう片方をポンプ室とする仕切り方です。
60センチ以下の小型水槽で、水槽台にろ過槽を収める場合、ろ過槽サイズは小型になりがちです。
2槽以上の仕切りを設けると、蒸発によりポンプ室の水位が不足し水が枯れやすくなってしまいます。
ポンプ室は最低でも15センチ程度確保した2槽式がおすすめです。
3槽式ろ過槽
120センチ以下の中型オーバーフロー水槽におすすめなのは、3槽式ろ過槽です。
こちらは、ろ過材スペースに2槽、ポンプ室スペースを1槽と区切ります。
ろ過槽横幅サイズの目安ですが、ろ過材スペースが2か所で40センチ程度、ポンプ室を15センチ程度の合計55センチ程度が理想的です。
ただし、ろ過材スペースの1か所をプロテインスキマースペースとする場合は、プロテインスキマーの外寸を計測し収まるようにサイズ変更しましょう。
なお、ろ過材を使わないベルリンシステムでプロテインスキマーを1台のみで運用する場合は、水槽サイズ3m以下程度までなら3槽式でも運用できます。
4槽式以上のろ過槽
150センチ以上の水槽となる場合は、4槽式以上で仕切られているろ過槽がおすすめです。
とくに、ろ過材を多く使いしっかり生物ろ過をしていきたい場合は細かく15~20センチ毎にろ過材スペースを区切ると良いでしょう。
ろ過材スペースがあまりに大きいと、すべてのろ過材に水が流れず無駄な部分が出てきます。
以上で、仕切り方の目安についてお伝えしました。
実際に設計、購入をする場合は、プロテインスキマーやポンプ、水槽台内へ収めるクーラーなどのすべての機材を採寸、確認し、ろ過槽サイズを決めてから何槽式とするか決めることが最も大切です。
次に、オーバーフロー濾過槽に使うスノコについて解説していきます。
オーバーフロー濾過槽におけるスノコの役割
ろ過槽には、ろ過槽自体の底面(下底)とは『スノコ』(上底)が付いています。
これは、浄化槽などのシステムと同じく沈殿槽の役割を担います。
沈殿槽は、ろ過の過程で発生する微細な汚れやバクテリアの死骸などを、再び水槽へ戻らないようにする役割をします。
また、スノコが無いとろ過材がろ過槽底まで詰めてしまうこととなり、底で水や汚れが滞留しろ過効率が悪くなります。
アロワナなどの肉食魚で汚れが溜まりやすい場合は、このスノコを底から広く設けると、汚れが沈殿しても滞留しにくくなるためおすすめです。
スノコの形状
スノコは通水性の高い格子板、パンチング板で制作します。
ウールボックスにもスノコは使用しますが、スノコのパンチング板の目の大きさは細かい目を使うことは控えましょう。
すぐに目詰まりをしてしまいウールボックスから水が溢れてしまう可能性もあります。
最後に、オーバーフローろ過槽に設けるオススメのオプション設計について解説していきたいとおもいます。
オーバーフローろ過槽におけるオススメのオプション
ドレン配管加工
ドレン配管加工をする目的は2つ。
- ろ過材の洗浄を簡単にする
- ろ過槽内の水を簡単に抜く
ろ過材の洗浄を簡単にする
ろ過材スペース底に設けることで、ろ過材をろ過槽内で洗浄することができます。
ろ過槽内で洗って出た汚れをドレン配管で排水するだけです。
ろ過材を汚すアロワナなどの肉食魚を飼育する場合、よく利用されているオプション加工です。
仕切り方によって、ろ過材スペースのみかろ過槽全体の水が抜けるか分かれます。
依頼時は、ドレン配管の場所を間違えないようにしましょう。
ろ過槽内の水を簡単に抜く
大型のろ過槽にオプション加工されていることが多いです。
バケツやポンプで排水しなくても、ろ過槽内の水を一気に排水することができます。
ろ過材をろ過槽内で洗浄する場合にも使用することができます。
ヒーター専用スペース加工
ろ過材とポンプ室の間にヒーター専用スペースを設けることで、水槽水温が安定しやすくなります。
通常、ポンプ室と同じ場所に入れます。
しかし、ヒーターセンサーやクーラー経由ポンプより前方スペースにヒーターを設置し温度検知器から遠ざけることで、水槽水温が安定しやすくなります。
マグネットポンプ用ソケット加工
ろ過槽へマグネットポンプをつなぐために、専用ソケットを取り付ける加工です。
穴をあけたろ過槽の側面に、ベースを使用しソケットを接着します。
ベースを使用することで強度も保持することができます。
まとめ: オーバーフローろ過槽を徹底解説!金額、種類、能力などすべて教えます
いかがでしたか。
オーバーフローろ過槽の種類から能力、金額まで解説いたしました。
こうして解説してみると、普段当たり前のように設計や管理していますが、オーバーフローろ過槽は奥が深いと再認識させられました。
オーバーフローろ過槽は、30センチの小型水槽からでも導入することができます。
照明以外の機材は、オーバーフローろ過槽内に収めることができるため、水槽景観がスッキリしてインテリア性も向上するため非常におすすめです。
また、オーバーフローろ過槽の面白いところは、設計すれば自分だけのオリジナルなろ過槽を作れるところです。
アクアリストやアクアリウム専門店では、オーバーフローろ過槽写真をSNSにアップしてオリジナル部分のPRをする方もいるほどです。
本記事を読まれた方も自分だけのオリジナルオーバーフローろ過槽を作るだけでなく、同じ趣味を持つアクアリストの皆さんへ共有しPRしてみるのも面白いとおもいますよ。
それでは、素敵なアクアライフをお過ごしください!
熱帯魚業界歴もうすぐ20年!
海水やアクアテラリウムなど、さまざまな水槽を担当してるアクアリストです。
アクアリウム専門のYouTubeチャンネル『アクアリウム大学』も配信中!
よろしくお願いいたします!