現在では世界中の水生生物を、個人が鑑賞目的で飼育することも一般的になりました。一般論として水生生物の飼育においては、元の生息地の環境に近づけた方が上手くいく傾向にあります。
しかし、海洋とは異なり淡水域では地域によって水質が大きく異なるので、淡水生物の飼育では時に水質の調整が必要になることもあります。淡水生物には酸性側の水質を好むものからアルカリ性側の水質を好むものが存在し、後者の代表的な種類として「アフリカンシクリッド」が挙げられます。
ここでは、そのような生物を飼育する際に、アクアリウムの水質をアルカリ性に傾ける方法などをご紹介します。
自然環境下における淡水のpHについて
pHはアクアリウムにおいて水質を示す指標の1つとして非常に大事なものです。pHは水素イオン濃度を表す指標で通常は0~14の範囲で適用され、pH7を中性として7を超えるとアルカリ性、7未満は酸性としています。
河川などの自然環境下における淡水のpHは地域によって異なり、その理由は主に地質と周囲を取り巻く環境にあります。
例えば、南米アマゾン川の支流の1つであるネグロ川は季節によってpH5を下回ることもありますが、これは川底に堆積した枯葉などに由来するタンニン酸やフミン酸の影響によるものです。
逆に、アフリカ南東部に位置するマラウィ湖は地質に存在するアルカリ岩の影響で、水質はpH8前後とアルカリ性を示します。日本国内においても石灰岩などの影響で、水道水が弱アルカリ性を示す地域もあります。
アルカリ性での飼育が好ましい生物について
淡水生物は種類によって適したpH帯が異なりますが、その理由は上記の通りもともと生息していた淡水域のpHが異なるためです。
水質の急変さえ避ければ、中性付近でも飼育するうえで問題は生じないことがほとんどですが、発色を良くしたり繁殖を狙う場合には元の生息地のpHに近づけた方が上手くいく傾向にあります。
ここでは、アルカリ性の水質での飼育が適している主な生物についてご紹介します。
アフリカンシクリッド
シクリッドとはスズキ目シクリッド科に属する淡水魚の総称です。中南米やアフリカから南アジアにかけて分布しており、中でもアフリカに生息しているものを「アフリカンシクリッド」と呼んで区別しています。
アフリカ大陸には前述したマラウィ湖のように、水質がアルカリ性の淡水域が散在しており、そのような場所に生息している種類については、飼育下でもアルカリ性で管理することが好ましいです。
具体的な種類としては、「アーリー(スキアエノクロミス・フライエリー)」や「レッド・ピーコックシクリッド」、「キフォティラピア・フロントーサ」などが挙げられます。
ベタ
ベタの大部分は弱酸性の水質を好みますが、「ベタ・シンプレックス」や「ベタ・オセラータ」など一部の種類は弱アルカリ性を好みます。
これは、もともとの生息地であるメコン川やスマトラ島の水域に、アルカリ岩や石灰岩の影響でアルカリ性になっている場所があるためです。
ただ、ベタに関してはもともと環境適応力が高い魚種なので、これらの種類についても中性の水で何の問題もなく繁殖までも可能なことが多いです。
メダカ・金魚
どちらも日本を代表する観賞魚で、酸性側よりはアルカリ性側の水質を好みます。発色が良くなったり抱卵数が多くなることもあるので、弱アルカリ性の水質を保つように管理している養殖場も散見されます。
これらの魚種も適応力は高いので、普通に飼育する分には中性付近を保つようにすれば問題ありません。
淡水フグ
淡水フグはその名の通り海水ではなく、純淡水域もしくは汽水域に生息しているタイプのフグです。東南アジアやインド、アフリカ、南米など世界中で様々な種類が確認されています。
もともと汽水域に生息しているものはもちろんのこと、「南米淡水フグ」のように純淡水で飼育できる種類にも弱アルカリ性の水質を好むものが多いです。
ただ、代表的な淡水フグである「アベニーパファー」のように、弱酸性から弱アルカリ性まで幅広く適応できる種類もいるので、事前によく調べておくことが大切です。
貝類
貝類も一般的には酸性側よりアルカリ性側での飼育が望ましいです。貝類の場合は殻に理由があり、殻の主成分は炭酸カルシウムなので酸性の環境に晒され続けると、殻の炭酸カルシウムが溶出して殻形成に悪影響を及ぼす恐れがあるのです。
そのため、貝類をコケ取り生体などに利用する場合は、少なくとも中性付近を保つようした方が良いと言えます。
各種ラムズホーン(インドヒラマキガイ)など、弱酸性の水質にも適応できる種類もいますが、やはり水質によって繁殖力などに違いが出ます。弱酸性ではあまり繁殖せず、弱アルカリ性では盛んに繁殖するので、pHを測る指標としても利用可能です。
水質をアルカリ性に傾ける方法
アクアリウムの水質をアルカリ性側に傾ける方法としては、主に以下の方法が挙げられます。
サンゴ砂の利用
まず、最も簡単かつ効果的な方法はサンゴ砂を導入することです。サンゴ砂は死んだサンゴの骨格が風化して砂のようになったもので、主に炭酸カルシウムで構成されています。
そのため、水槽に導入しておくと徐々に炭酸カルシウムが溶出することで、水質を自然な形でアルカリ性に傾けてくれます。
このサンゴ砂を底床材として利用したり、ろ材そのもの、あるいはろ材に少し混ぜるようにして導入すると、水質を継続的にアルカリ性側に傾けることが可能です。
ろ材にアルカリ性に傾ける効果があるものを使用
次に、ろ材に「水質をアルカリ性に傾ける効果があるもの」を使用することが挙げられます。代表的な製品としては、太平洋セメントから発売されている「パワーハウス ハードタイプ」があり、材質の性質から水質を弱アルカリ性に保つ効果があります。
レイアウト用品の工夫
さらに、レイアウト用品を工夫することでも、ある程度のpHのコントロールが可能です。アルカリ性側に傾けたい場合は、サンゴ岩などの石灰分が多い物を入れると効果的です。
流木に関してはタンニン酸やフミン酸などが溶出し、逆に水質を酸性側に傾けてしまうので注意してください。アルカリ性側で管理したい水槽に流木をレイアウトしたいのであれば、事前に入念にアク抜き処理を行うことが重要です。
水質調整剤の使用
また、pHを上昇させる効果がある水質調整剤を使用することでも、水質をアルカリ性に傾けることが可能です。
しかし、水質調整剤は即効性には優れるものの持続性には欠けることが多く、水換えのたびに添加しなければならないので、あくまでも補助的な使用に留めた方が良いでしょう。
まとめ・水質をアルカリ性に傾けるための調整方法について
海洋とは異なり淡水域では地域によって水質に大きな差があります。そのため、淡水生物は酸性側の水質を好むものから、アルカリ性側を好むものまで種類によって様々です。
ここで紹介した種類はアルカリ性側を好む生物ですが、普通に飼育する分には中性でも問題が生じないことがほとんどです。
しかし、アルカリ性側で飼育することで発色が良くなったり、繁殖しやすくなることもまた事実なので、水質を調整してワンランク上の楽しみ方に挑戦してみてはいかがでしょうか。
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