海に住むエビと聞くとクルマエビや甘エビ(ホッコクアカエビ)といった、食用のエビを思い浮かべる方も多いと思いますが、マリンアクアリウムでは代表的なクリーナー生体として重宝されている種類も存在します。
中には海水魚顔負けの鑑賞性を持つ色鮮やかな種類もいて、海水魚の健康と飼育環境の維持だけでなく、私たちの目も楽しませてくれます。ここでは、海水エビについて飼育しやすい種類や飼育方法、混泳や水合わせの方法などをご紹介します。
海水エビとはどのような生物か?
特徴
エビは十脚目長尾亜目に分類されている甲殻類の総称です。河川などの淡水域から汽水域、海水域まで世界中の水域に幅広く分布しており、海水エビは海に生息するエビを指します。
体は頭胸部と腹部に分けられ、頭胸部は1つの頭胸甲から成り、腹部は7節あってそれぞれが殻で覆われています。頭胸部には2対4本の触角と5対10本の歩脚が付いており、腹部には5対10本の腹肢があります。歩脚にハサミを持つエビも多いですが、イセエビの仲間はハサミを持ちません。
腹肢は遊泳時や抱卵する際に用いられ、オスの場合は第1腹肢が生殖器官に変化しています。繁殖形態は卵生で、卵がふ化すると「ノープリウス幼生」や「ゾエア幼生」と呼ばれるプランクトンの状態で誕生し、浮遊生活を経た後に稚エビへと変態します。
食性は魚の死骸や海藻類など何でも食べる雑食性で、この性質を利用して海水水槽のクリーナー生体として導入されることも多いです。
飼育しやすい種類
スカンクシュリンプ
全長7cm前後のエビで、赤色と白色のコントラストが美しい種類です。水槽に入れておくと、魚の体表に付着した寄生虫などを取って食べてくれるクリーナーシュリンプとして知られています。
名前の由来は動物のスカンクのように体に入る白線にありますが、この線がクリーナーであることを魚に認識させていると考えられています。
ペパーミントシュリンプ
全長6cm程度のエビで、半透明の体に無数の赤色の線が入る種類です。クリーナー生体として人気があり、カーリー(セイタカイソギンチャク)を駆除する目的でマリンアクアリウムに導入されています。
ホワイトソックスシュリンプ
全長8cmほどに達するエビで、鮮やかな赤色の体色を基調に、歩脚や触覚の先端が白色に染まる種類です。スカンクシュリンプなどと同様にクリーナーシュリンプとして知られており、海水魚と混泳させると体表に付いた寄生虫などを取って食べてくれます。
イソギンチャクモエビ
全長1cmほどの小型のエビで、褐色の体色を基調に白色の大きな斑点が入ります。名前の通りイソギンチャクと共生するエビですが、飼育下ではイソギンチャクは必ずしも必要ではありません。しゃちほこのように体を反らせた状態で行動する様子が印象的な種類です。
オトヒメエビ
全長5cm程度のエビで、長いハサミを持ち赤色と白色のコントラストが鮮やかな種類です。クリーナーシュリンプとして有名で、海水魚の体表に付いた寄生虫類を捕食します。雌雄の結びつきが強くて1度ペアが成立すると、他の個体を排除しようとするので混泳は注意が必要です。
海水エビの飼育に必要な器具類
海水エビの飼育には主に以下に示す器具類が必要です。
・水槽
・フィルター
・エアレーション
・照明
・底床材
・ライブロック
・ヒーター、クーラー
・水温計
・人工海水の素
・比重計
・カルキ抜き剤
・餌
・添加剤
この中で特に注意が必要なものを以下で説明します。
水槽
ここで紹介した海水エビはそれほど大きくならないので、30cmクラスの水槽から飼育ができます。しかし、小型水槽は入る水量が少ないため、飼育環境を維持するためには頻繁なメンテナンスが要求される点に注意してください。
また、海水エビは水質の変化に敏感なので、過密飼育は危険です。飼育する個体数は60cmクラスの水槽でも数匹程度に留めることを推奨します。
フィルター
フィルターは、水槽の大きさや飼育する生体の数に応じた能力のものを導入してください。60cm以下の水槽で海水エビのみを飼育するのであれば、外掛け式や上部式、外部式などが候補です。
通常は、水槽用クーラーを取り付けられる、外部式フィルターが採用されます。
大型の水槽で多数のエビを飼育する場合や、海水魚と混泳させる場合はオーバーフロー水槽も視野に入ります。
添加剤
海水エビも他の甲殻類と同様に、脱皮を繰り返して成長します。飼育下においては餌だけでは養分が足りず、脱皮不全を起こして死亡する恐れがあるので、脱皮に必要な栄養素が含有された添加剤を投与して、養分を補ってあげると安全です。
脱皮に失敗する原因の一つとしてヨウ素の不足が考えられているので、ヨウ素添加剤を中心に投与すると良いでしょう。
海水エビの飼育方法
水温・水質
海水エビに適した水温は種類によって微妙に異なりますが、20~25℃前後に調節すれば問題ありません。夏と冬はそれぞれクーラーとヒーターを用いて水温を管理してください。
水質の目安としてはpH8.1~8.4、比重1.020~1.023で、人工海水を規定の濃度で作成すればこの範囲になります。エビを飼育していると排せつ物などから生じる硝酸塩でpHは下がり、飼育水が蒸発すると比重が高くなるので、適正範囲から外れないように注意してください。
餌
海水エビの場合は専用飼料はありませんが、雑食性の海水魚用に配合された人工飼料で代用が可能です。エビの生活圏は下層なので、餌は沈下性のものを選んでください。
与え方としては1日に2~3回に分けて、食べ残しが生じない程度に与えます。食べ残した餌は水質を悪化させるので、可能な限り取り除いてください。
水合わせの方法
海水エビは環境の変化にデリケートなので、新しく入手した個体を水槽に入れる前には、必ず水合わせを行わなければなりません。手順としては、まず購入時の袋のまま水槽に浮かべて水温を合わせます。
水温の調整が完了したら、袋の海水ごとエビをバケツやプラケースなどの容器に入れて海水を1/3ほど捨て、そこに水槽内の海水を捨てた分量だけ入れます。この作業を3~4回繰り返し、エビを水槽の海水に慣らしていきます。
水槽の海水を入れる際は、ゆっくりと時間をかけて入れてください。また、水合わせを行っている最中も水温は変化するので、温調機器が効いている室内で行うか、水合わせの容器にヒーターなどを入れると良いでしょう。それと同時に、エビは酸欠に弱いのでエアレーションは必須です。
混泳について
海水エビ同士の混泳
海水エビは縄張り争いをする場合があるので注意してください。本稿で紹介した種類だとオトヒメエビは特に縄張り意識が強く、同種間では激しく争います。飼育は単独にするか、オスとメスのペアに限定した方が無難です。
他の種類については混泳相性は良い傾向にありますが、過密飼育では脱皮を邪魔されて死亡したり、脱皮直後の柔らかい時を狙われて共食いが発生する場合があります。
過密状態にならないように個体数に注意すると同時に、ライブロックなどで隠れ家を作り、落ち着いて脱皮ができる環境を整えてあげてください。
海水魚との混泳
海水魚とは共生関係を築ける種類とは問題なく混泳が可能ですが、甲殻類を好んで捕食する魚種や攻撃的な種類とは混泳できません。
相性が良い海水魚としては、ハタタテハゼなどの小型ハゼ類や、カエルウオなどのギンポ類、デバスズメダイなどが挙げられます。ただし、これらの魚種が小さいと動物食性が強いオトヒメエビなどには捕食される危険があるので、エビとのサイズ差には注意してください。
一方で、イエローコリスなどのベラ類やクダゴンベなどのゴンべ類、フグ類、テンジクダイなどはエビが好物なので捕食してしまいます。これらの魚種との混泳は基本的には避けた方が良いでしょう。
メンテナンスについて
メンテナンスの内容については海水魚の飼育と同様に、水換えと水槽内および周辺機器の掃除、水足しです。水換えの頻度は飼育環境に大きく左右されるので一概には言えませんが、1~2週間に1回程度は行ってください。
その際は、飼育水の全量に対して1/3程度の量を交換し、新しく入れる海水は水温を合わせてから入れてください。海水は人工海水の素を水道水に溶かして作成しますが、その際に水道水のカルキ抜きを忘れないでください。
また、エビを飼育していると水が蒸発して塩分濃度が高くなり、適正範囲を超えるとエラなどを傷つけてしまいます。それを防ぐために最初にセッティングした時の水位をチェックしておき、水位が下がっているようでしたらカルキ抜きをした水道水を追加してください。
海水エビの繁殖について
海水エビは淡水エビと異なり、飼育下での繁殖はかなり難易度が高いです。スカンクシュリンプなどは飼育下でも抱卵までは比較的容易に至りますが、卵から誕生するのは「ゾエア幼生」と呼ばれるエビとは似ても似つかない姿をしたプランクトンです。
このプランクトン期の管理が非常に困難で、餌はもちろんですが環境の変化に弱く、些細な変化で死に至ることも珍しくありません。そのため、個人で繁殖を成功させているのはごく一部の愛好家のみで、確実な繁殖方法は紹介できないのが現状です。
まとめ・海水エビの飼育法について
ここで紹介した海水エビの種類は比較的丈夫ですが、甲殻類は全体的に水質の悪化に弱い傾向があります。特に水温や水質が急変すると適応できずに死亡する危険があるので、水合わせは十分に時間をかけて行ってください。
また、エビは酸欠に弱いので水合わせの際は、エアレーションを行うことを忘れないでください。そして、魚用の人工飼料の原料にエビが使用され、魚釣りの餌としても一般的に用いられることから分かるように、多くの海水魚にとってエビはごちそうです。
混泳させたい場合は、海水魚の食性についてよく調べてから挑戦し、エビとのサイズ差にはくれぐれも注意してください。
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