『ベルリン式』は、マリンアクアリウムの中でも、特にサンゴを育成する水槽で用いられるろ過方式のことで、ろ材を使うことなくプロテインスキマーとライブロックによって水質を維持します。
硝酸塩がほぼ発生しないため、ミドリイシなどの水質に敏感なサンゴを飼育するのに最適です。とはいえ、機材が多いうえに立ち上げ方も複雑なので、初心者の方にはハードルが高く感じてしまうことも少なくありません。
そこで今回は、メリットと必要な設備・立ち上げ方などをふまえて、ベルリン式について解説します。
ベルリン式とは?
ベルリン式は、海水魚水槽のなかでもサンゴを飼育する際に用いられるろ過方式なので、聞き慣れない方も多いのではないでしょうか。
一般的なろ過方式とは異なる点が多く難しく感じてしまう事もあるので、まずは、
- 特徴とろ過の仕組み
- 飼育できる生き物
- メリットとデメリット
この3点を具体的に解説していきます。ベルリン式の水槽を立ち上げるために必要な内容なので、ぜひ、ご覧になってみてください。
ろ材を使わないろ過方式
ベルリン式とは、ろ材を使わないろ過方式で、硝酸塩を発生する前に除去できるのが大きな特徴です。
一般的なろ過方式では硝化バクテリアによって、餌の食べ残しやフンなどの有機物がアンモニア→亜硝酸→硝酸塩の順に分解されます。ベルリン式では、プロテインスキマーが作る微細な泡によって、有機物(タンパク質)やゴミの段階で物理的に除去することが可能です。
とはいえ、完全に取り除けるわけではないため、バクテリアの住処になるライブロックを入れることで、硝化バクテリアによる生物ろ過と嫌気性バクテリアによる硝酸塩の分解を促します。
- プロテインスキマーによる有機物の除去
- 硝化・嫌気性バクテリアによる生物ろ過と硝酸塩の分解
この2つのバランスを保ち、水質浄化を実現するのがベルリン式です。
ベルリン式で飼育できる生き物
ベルリン式はろ過方式が特殊なだけに、飼育できる生き物も異なります。
一番大きな特徴は、水質の変化に敏感なサンゴ類が飼育できることです。
ミドリイシなどのサンゴ
ベルリン式で飼育できる生き物は、サンゴやイソギンチャクなどの無脊椎動物です。
サンゴなどは水質変化に特に弱いため、硝酸塩の蓄積が命取りになることも珍しくありません。ベルリン式は、そのようなサンゴ類を飼育するために考案されたろ過方式でもあります。
なかでも微量の硝酸塩にも弱く、通常の海水水槽では育成が難しいミドリイシを始めとしたハードコーラルが飼育できるのは、ベルリン式だからこそです。
養分発生源としての海水魚
ベルリン式でも、一般的なろ過方式のように海水魚を飼育することができます。
ただし、ろ材を用いらずに硝化バクテリアのろ過能力に頼るベルリン式では、処理できる汚れに限りがあるため、多数の海水魚は飼育できません。とはいえ、バクテリアの餌となる養分を発生させるには海水魚が必要ですので、養分の発生源として数匹程度の飼育となることを覚えておきましょう。
ベルリン式を採用した水槽は、海水魚よりもサンゴを育成するのに特化していますので、海水魚の飼育はあくまでオマケ程度と考えたほうが良いです。
ベルリン式のメリット
ベルリン式のメリットは、硝酸塩がほぼ検出されず水質変化が起こりにくいことです。
そのため、硝酸塩の排出が主な目的である水換えの頻度を大幅に下げられるだけではなく、通常の海水魚水槽では飼育が難しいミドリイシなどのハードコーラルを安定して育てることもできます。
ベルリン式のデメリット
ろ材がなく硝化バクテリアの量が多いわけではないため、飼育できる生体の数は少なくなります。
海水魚では1~2匹が目安になることから、サンゴ類以外の観賞には向いていません。
また、必要な設備が多くやや特殊で高価な機材もあるため
- オーバーフロー水槽一式
- プロテインスキマー
- ライブロック
- マグネットポンプ
- 強力な照明
などを用意するには初期費用がかかります。ろ材に頼らず硝化バクテリアを定着させるために、立ち上げに時間がかかる点もデメリットでしょう。
とはいえ、ベルリン式で水槽が上手く立ち上がると、サンゴの飼育に最適な環境になるので、サンゴ好きならば実現したい憧れのろ過方式といえます。
ベルリン式の設備と立ち上げ方
ここからは、ベルリン式の設備と立ち上げ方をご紹介します。
おすすめの機材例をふまえて解説するので、ベルリン式の立ち上げを検討中の方はご覧になってみてください。
ベルリン式に必要な設備
ベルリン式に必要な設備は次の7つです。
- オーバーフロー水槽一式
- ライブロック
- マグネットポンプと水流ポンプ
- プロテインスキマー・カルシウムリアクター
- 高照度のサンゴ用照明
- 水槽用クーラーと水槽用ヒーター
- 底砂・サンゴ用人工海水の素
通常の海水魚水槽とは異なる点も多いので、具体的に解説していきます。
オーバーフロー水槽一式
90~120cm以上のオーバーフロー式水槽に加え、水槽台とサンプ(ろ過槽)を用意しましょう。
ベルリン式はろ材がなく、大量のバクテリアを定着させることができません。水質変化を抑えるためにも、大型の水槽で水量を確保する必要があります。
水量はもちろん、ろ過の心臓部である強力なプロテインスキマーを導入するためにも、サンプはできる限り広いものを用意しましょう。とはいえ、水槽とサンプがどちらも大型になるので、市販品ではバランス調整が難しい場合もあります。
理想的な水槽設備をまとめて一式そろえたい場合は、オーダーメイドもおすすめです。
ライブロック
硝化バクテリアや嫌気性バクテリアを多く定着させるために、多量のライブロックを導入します。
ピンクや紫色の石灰藻がたくさん付着したものが、良質なライブロックです。ただし、ライブロックには害虫や意図しない生き物が付着している可能性があるので、水槽に入れる前に丁寧にキュアリングをしましょう。
また、石灰藻は良い水質が保たれている環境でないと繁茂しないため、ライブロックに石灰藻が繁茂する水槽=サンゴにとって良い環境が保たれている水槽、と考えることができます。
水槽の状態を見る際の一つのバロメーターとして覚えておきましょう。
マグネットポンプと水流ポンプ
循環ポンプは、レイシー社の『マグネットポンプ』がおすすめです。
ポンプのパワーは、水槽の大きさや水量によって変わります。ライブロックを多量に入れることで水流が妨げられやすいため、水流ポンプを設置して水流が行き渡るようにしましょう。
プロテインスキマー・カルシウムリアクター
ベルリン式に欠かせないプロテインスキマーは、レッドシーの『H&S』やゼンスイの『ジェネシス』などがおすすめです。
高性能なだけでなく、メンテナンス性も高いのが特徴です。エアーリフト式ではパワー不足なので、水中式(ベンチュリー式)を用意しましょう。プロテインスキマーの負担を減らすために、ろ過槽の落水地点にウールマットを設置してゴミを減らすのも良い方法です。
またミドリイシを飼育する場合は、カルシウムリアクターも用意した方が良いです。サンゴの成長に必要なカルシウムを供給することができます。
ミドリイシは成長が早く水中のカルシウムを消費しやすいため、カルシウムリアクターと後ほどご紹介する添加材で管理する方法がおすすめです。
プロテインスキマーとカルシウムリアクターについては、こちらの記事でも詳しく解説しています。
高照度のサンゴ用照明
ベルリン式でサンゴを飼育する場合は、サンゴ用の照明が必要です。
サンゴは光合成によって成長するための養分を作り出しますが、すべての波長を持つフルスペクトルの照明が最適です。
サンゴ用の照明では、
- Ai Hydra(ハイドラ)
- Radion(ラディオン)G5
- グラッシーレディオ
この3つをおすすめします。
通常の照明では光量不足だったり、波長が適していなかったりするため、サンゴ用の照明を用意しましょう。
サンゴ用の照明は、こちらの記事で詳しく解説しています。
水槽用クーラーと水槽用ヒーター
サンゴを管理するためには、水槽用のクーラーとヒーターも重要です。
サンゴにとって水温の変化が負担になるため、夏や冬は水温を調節する必要があります。水槽用のクーラーとヒーターは、水槽の大きさと水量に合わせて選びましょう。
水槽用のクーラーやヒーターの選び方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
底砂・サンゴ用人工海水の素
ライブロックだけではなく、底砂もバクテリアの住処になります。
もともとバクテリアがいるライブサンドであれば、定着させる期間を短縮できるのでおすすめです。
また、通常の海水の素でも問題ありませんが『リーフクリスタル』や『コーラルプロソルト』など、サンゴ用の海水の素にはカルシウムやビタミンなどが含まれているので、サンゴの育成に最適です。
ベルリン式の立ち上げ方法
必要な設備をそろえたら、照明を十分に照射しながら運用を始めます。
立ち上げて間もないと、どうしてもアンモニアや硝酸塩が検出されるため、適宜水換えしながら水質を安定させていきます。立ち上がりの目安は、アンモニア・亜硝酸・硝酸塩が検出されなくなったタイミングです。
とはいえ、ベルリン式は立ち上げに時間がかかるため、数カ月かかることも珍しくありません。プロテインスキマーの動作と硝化・嫌気性バクテリアの働きが安定したことを確認できてからサンゴを導入しましょう。
ベルリン式を維持する添加剤について
ベルリン式でサンゴ類を維持する場合は、添加剤の使用がおすすめです。
カルシウムを始めとする不足しやすい成分を的確に添加することができます。
カルシウム剤・サンゴフードは必要!
石灰藻を育てるためにはカルシウムが必須なので、カミハタ『パープルアップ』などのカルシウム剤を添加しましょう。
また、汚れが溜まると石灰藻の成長に悪影響を与えるため、水流ポンプでライブロックに水流が当たるよう調節しながら管理します。
その他のサンゴフードや添加剤は、水質や水槽の様子を確認しながら適宜添加してください。
RO浄水器を使ったほうが良い?
ベルリン式で水槽を運用する場合は、RO浄水器を使うことで水質がより安定しやすくなります。
水道水に含まれる余分な成分を除去できるため、コケの抑制や水質を安定させやすいです。ミネラルなどを取り除いてしまう側面もありますが、海水の素にも含まれていますし、添加剤を使う方が的確に補うことができます。
RO浄水器では、マーフィード『エキスパートマリン』シリーズがおすすめです。
RO浄水器については、こちらの記事をご覧ください。
まとめ:ベルリン式とは!メリットと必要な設備・立ち上げ方、添加剤について!
今回は、メリットと必要な設備・立ち上げ方などをふまえて、ベルリン式について解説しました。
ベルリン式はプロテインスキマーと硝化・嫌気性バクテリアの働きによって、硝酸塩が出る前に取り除くろ過方式です。ミドリイシなどの硝酸塩に敏感なサンゴ類は、ベルリン式だからこそ飼育できるといっても過言ではありません。
設備の用意や立ち上げに手間はかかりますが、それ以上のメリットがあるので、サンゴ水槽を立ち上げたい方はベルリン式に挑戦してみてください。
トロピカライターの高橋風帆です。
アクアリウム歴20年以上。飼育しているアーモンドスネークヘッドは10年来の相棒です。
魚類の生息環境調査をしておりまして、仕事で魚類調査、プライべートでアクアリウム&生き物探しと生き物中心の毎日を送っています。